top of page

 

 

Experimental attempt

 

芸術祭通貨「Life」の創造

 

 

 

 芸術祭通貨「LiFE」により、アーティスト、地域にとって、それぞれの「創造力」を 最大限に発揮し、継続的な文化活動を地域で行う事ができる地盤をつくりたい。

 

 

1「LiFE」は人の創造力と創造力の交換に用いられるメディアである。

 

2 創造力とは芸術作品をつくるためだけではなく、人間の真に豊かな社会をつくりだす全てに発揮される力である。

 

3 「LiFE」は、その人らしさ・地域独自の資源を生かした活動を促進し、積極的な創造力の交換を生み出し、人

と人の交流を創造する。

 

4「LiFE」は、法定通貨(¥・€・$ など)では見えなかった価値を創造する。

 

5「LiFE」は、慣れ親しんだ貨幣について再考する機会を創造する。

●制作の背景

 

 現在、ある場所にアーティストを招聘し、その土地で作品を制作してもらうという試みは、数多くの芸術祭やその他のアートプロジェクトで見られる。その場所では、地域の自然や文化、見えない価値などをアーティストが発見し、造形し、それを地元の人や来場者と共有し、新たな価値や交流を創造される。それを主に支えているのは、町や市などの行政の助成金であり、そこに住む人たちの税金である。けれど、その助成金だけではアーティストの活動を十分に賄う事ができず、 どこかでアーティストは身銭を切り、多くの時間を制作に費やしている。潤沢な資金がない中で運営している芸術祭やアートプロジェクトのほとんどは、アーティストの負担によって支えられている現状がほとんどだろう。

 

 この「かがわ・山なみ芸術祭」も例外ではない。私は前回の「かがわ・山な み芸術祭 2013」にレジデンスプログラムで参加させて頂いたが、そこで支給 された金額では展示した作品をつくりあげるには十分でなかった。そうした中 でも参加した芸術祭を通して、香川で出会う人たちとの交流は、かけがえのな いものでお金には替える事のできない貴重な体験であった。しかし、である。こうしたアーティストの厚意でなんとか成り立っている状況をどうしたら改善 して行けるのだろうか。 今回このエリアのキュレーションのお話をいただいた時、担当する事になったエリアで、一体何ができるだろうかと考えた。将来の夢を選択する時、芸術がやりたくとも、経済的な不安からその道を再考しなくてはならない状況に悩 む人は多い。それは第一に、作家活動はお金にならないという先入観がある。 私も経験があるが、作家活動は経済活動の枠の外にあるという認識があると感じる。それでもアーティストになろうとする人は、作品制作だけではなく、制作活 動ではない仕事で主な収入を得て、その収入をもとに、制作に必要な材料や道具を買い、生活費も払い生きている。こうした作家のリアルな問題と、潤沢な資金のない芸術祭を継続的に運営するにはどうしたら良いのか、そうした時「地域通貨」の概念と出会った。そこで、地域通貨をデザインし、効果的に用いる事で、少ないお金を増やすために助成金をかき集めるのではなく、規模を縮小するのでもなく、継続的に実現する道を見いだせるヒントがあるのではないか。 そして、芸術祭通貨「LiFE」を運用してみたいと考えた。

 

 

●創造力どうしを交換し循環させる「LiFE」

 

 図にあるように、「LiFE」は「創造力」という形になっていないものに対し支払われ、作家の日々の創造活動を支える。一日の創造活動に「LiFE」は支払われる。 その「LiFE」を使えば、地域の食材と交換し、食べていく事ができる。つまり円を使わなくとも、自分の「創造力」で 生きる事ができる。しばしば、地方の芸術祭に参加すると「差し入れ」という形 でその土地で採れた新鮮な食材を頂く事 がある。この交換にアーティストは作家 活動で支給された「LiFE」を生産者の方に渡す。生産者の方は、美味しい野菜を つくるために日々、草むしりや水まきなどの「創造的な活動」をしている。生産者の方に貯まった「LiFE」は次にアーティストの実施するワークショップやギャラ リートークの参加費として交換され循環する。こうした「創造力」の循環により、 アーティストと地域に生きる人たちとの対話も濃密になると考えている。
 この「創造力」どうしの交換によって、ヨーゼフ・ ボイスがかつて言った「全て の人間はアーティストである」「本当の 資本とは貨幣となんの関わりもないものであり、人間の創造力、創造性、そうしたものこそが唯一の資本である」といった場を感じられる現場にもなるものと考えている。

 

 

●現在の貨幣システムを再考する機会を創造する「LiFE」

 

 私は、今回の芸術祭で、「LiFE」というもうひとつの「貨幣」を創った。なぜなら、日常使っている貨幣とはなんなのかという対話を多くの人と試みたいからだ。貨幣が引き起こしてしまう問題は、貨幣をつくることでその解決のヒントを得られると私は、考えている。 「LiFE」は、芸術祭に参加する一人ひとりがその使い方を考え提案することが できるメディアを目指している。「¥・$・€ など」の法定通貨はすべて利子の 付く銀行負債によって生みだされている。法定通貨は、インフレーションの回避を目的とし、その希少性を人工的にかつ体系的に維持し続ける。貨幣はそれが何であるのか わからないものであるに関わらず、当たり前の様に日常の中で使われている。そして私たち は、記憶に新しい様々な貨幣の危機にしばしば 見舞われてしまう。

 「LiFE」によって貨幣経済では価値を見出し にくい活動や産業の創造力を可視化したい。 世界中で動いている 95% 以上の貨幣は、実 際の商品やサービスとの取引に用いられず、単なる金融上の取引に使われているというデータ がある。物々交換を円滑にするために考え出された貨幣が、金が金を生む投機や大きな利潤を 生むだろう投資に使われている。また、現在は 当たり前の貨幣が持つプラスの利子のシステム(貨幣を誰かに貸すと利息がついて増える)で は、より短期の利益を上げるものへの投資が主流になる。例えば日本の林業などはこのシステムでは割に合わず、多くの貨幣は他の利益をあげるものへ投資され、日本の森 は荒れて行く原因にもなる。芸術も長期のビジョンを持って継続的に「創造力」 の投資がなされなければ、豊かに育つことはないと考える。

 「LiFE」はこうした貨幣では価値を見出せないものの価値を明らかにする事を期待している。また長期的な視点を持って、アーティストと地域を共に育てていく気持ちも生まれたら嬉しい。「LiFE」を出発点として、現在起きている課題の根源へのまなざし を共有し、これからどう生きて行くのかを皆で考える時間になることに繋がると期待する。

 

TEXT:Shunya.Asami

 

 

 

 

bottom of page